建築物の石綿(アスベスト)事前調査は、建物を利用する人々の健康を守るために欠かせない作業です。
当社では、改修や解体を伴う場合だけでなく、日常の維持管理においても適切な調査を徹底します。
調査方法には、建物を傷つけずに済む非破壊調査と、一部建材を取り外したり解体したりする取り外し調査の二種類があります。
どちらを選択するかは、建物の状況や調査の目的によって異なりますが、調査者のばく露リスクを最小限に抑えつつ、正確な情報を得ることを優先します。
今回は、非破壊調査で対応可能なケースと、取り外し調査が必要になるケースについて、現場の経験を基に実践的なポイントをお伝えします。
正確に調査手法を選ぶことで、安全かつ効率的に石綿の有無を確認できますので、建物管理の参考にしていただければ幸いです。
非破壊調査で対応できる主なケース
石綿調査の多くは、建物を傷つけずに済む非破壊調査で進めます。まず始めに建築図面と現地の状況を丁寧に照合し、仕上げ材の種類や状態を目視で確認します。
点検口、パイプシャフト、照明器具やコンセントの開口部などを活用して、隠ぺい部分を覗き込み、内部の建材を観察します。
復旧が容易なカーペットやフリーアクセスフロア(OAフロア)などは、慎重に外して下地の状況を確認します。
対象となる石綿含有の可能性がある建材を発見した場合には、現地調査票に詳細を記載し、状況写真を撮影して記録します。
試料採取が必要な場合も、同様に写真を残し、報告書に記録します。この方法であれば、調査者の石綿ばく露リスクを抑えつつ、十分な情報を得ることが可能です。
ただし、点検口や開口部が全くない場合や、解体許可が得られない場合には、一部を調査できないことがあります。
そのようなケースでは、調査できなかった部位を現地調査票と報告書に必ず明記し、後々の管理や工事に支障が出ないよう配慮します。
外壁のスレート板や床のビニルタイルのように、表面から目視で確認できるレベル3建材の調査では、特にこの非破壊調査が有効です。
取り外し調査が必要になる主なケース
改修工事や解体工事を伴う事前調査では、隠ぺい部分や二重仕上げの裏側に石綿含有建材が使用されているおそれがある箇所を確実に確認する必要があります。
このような場合、非破壊調査だけでは不十分であるため、取り外し調査を実施します。
特に、壁や天井の仕上げ材の下に隠れている練り付けパテ、石膏ボード、耐火被覆材などは、表面を一部取り外したり解体したりしないと確認できません。
取り外し調査を行う際は、事前と事後の状況を必ず写真撮影し、可能であれば試料採取中の様子も記録します。
これらの写真は現地調査票に添付し、最終的な調査報告書にも詳細に記載します。
試料採取においては、調査者自身の石綿ばく露を防ぐため、適切な保護具を着用し、負圧集塵機などの飛散防止対策を講じた上で慎重に進めます。
レベル3建材の中でも、クロス下地や断熱材のように仕上げ材で覆われているものは、この取り外し調査が不可欠です。
正確な石綿の有無を把握することで、後々の工事計画を安全に立てることができます。
調査の目的に応じて、必要な範囲で適切に取り外しを行うことで、信頼性の高い結果につながるのです。
調査者の安全を最優先にした進め方
石綿調査の基本は、調査者自身が石綿にばく露しないよう最大限配慮することです。
取り外し調査が必要な場合でも、できる限り建材の切断や大掛かりな破壊を伴わない方法を選択します。
たとえば、照明器具やコンセント、スイッチボックス、エアコン配管の貫通部などを取り外すだけで隠ぺい部分にアクセスできる場合は、その方法を優先します。
こうした工夫により、飛散リスクを抑えつつ必要な情報を得ることが可能です。
一方で、どうしても部分的な解体が必要になる場面もありますが、その場合も作業エリアを限定し、養生シートで囲い、集塵装置を活用するなど、厳重な飛散防止対策を講じます。
調査全体を通じて、記録の徹底も欠かせません。非破壊・取り外しを問わず、発見した建材の位置、状態、試料採取の状況を写真と文章で残すことで、報告書の信頼性が高まります。
このような安全第一の姿勢で調査を進めることで、建物利用者のみならず、調査に携わる全員の健康を守りつつ、正確な情報収集が可能になります。
記録の徹底で信頼性を高める
石綿調査の信頼性は、詳細な記録にかかっています。
非破壊調査、取り外し調査を問わず、発見した建材の位置や状態、試料採取の状況を現地調査票に正確に記載します。
必ず事前・事後(可能であれば採取中も)の写真を撮影し、報告書に添付します。この写真記録は、単なる証拠としてだけでなく、後日の確認や第三者への説明にも役立ちます。
特に取り外し調査では、作業範囲や養生状況、復旧後の様子まで記録を残すことで、建物の所有者や管理者に安心していただけるでしょう。
調査できなかった部位がある場合も、その理由と範囲を明確に記載し、将来の追加調査が必要であることを明記します。
丁寧に記録管理することにより、調査結果の透明性を確保し、法令遵守と安全管理の両立を図っています。
まとめ
石綿調査を正しく正確に行うためには、以下のポイントが重要です。
- 非破壊調査を優先し、点検口や復旧可能な部位を活用
- 隠ぺい部や二重仕上げのおそれがある場合は取り外し調査を実施
- 調査者のばく露防止を最優先に、切断を最小限に抑える
- 写真と詳細記録で調査の信頼性を確保
上記の内容を実践することで、建物を傷つけずに正確な石綿情報を得ることが可能です。
特に改修・解体前の事前調査では、必要な範囲で取り外しを躊躇せず行い、潜在的なリスクを見逃さないことが重要です。
安全第一の調査を徹底することで、建物利用者の健康を守り、工事の円滑な進行にもつながるでしょう。