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事例から学ぶアスベスト対策

吹き付けアスベスト原因の中皮腫で賠償金6,000万円

2001年に胸膜中皮腫を発症したAさんの事例です。
Aさんは、1970年から2002年までの32年間、文具店の店長として駅高架下の建物で勤務しており、胸膜中皮腫を発症しました。2階建ての店舗建物は、1階が店舗、2階が倉庫になっていて、2階倉庫の壁面に吹き付けアスベスト(クロシドライト)が施工されていました。この店舗での勤務が中皮腫発症の原因だと考えたAさんは、アスベスト関連NGOに相談しました。NGOは独自にAさんの曝露歴や、倉庫内のアスベスト飛散状況などの調査を実施しました。その結果、中皮腫の原因は建物内の吹き付けアスベストによるものだと断定しました。Aさんは残念ながら、闘病の末2004年に亡くなっています。
残された遺族は、2006年に建物の所有者兼賃貸人である、鉄道関連会社等を相手に民事損害賠償の裁判を提起し、最終的に遺族側が勝訴しました。
この裁判では、建物内で飛散したアスベストによる健康被害について、建物所有者及び占有者の責任が問われました。建物賃貸人と従業員の関係は、民法第717条第1項に基づき、責任を負うべき同建物の「占有者」に当たるとして、約6000万円の損害賠償を命じています。
この判決では、「人が利用する建物について、その性質上、利用者にとって安全で、人の生命・身体に害を及ぼさないことが前提となっている」として、安全を欠いているときの責任を建物の所有者・占有者が負うことを示しています。建物所有者は、建物の危険性をいち早く把握して、対策を行なうことが極めて重要だといえます。

豊洲移転に伴う旧築地市場の解体工事

2018年10月、築地市場は豊洲に移転しました。移転後、築地に残されたアスベスト含有建物の、大規模な解体工事が実施されています。155棟の解体建物のうち、アスベスト除去工事が必要な建物は87棟あり、そのうちリスクの高いレベル1.2の除去工事が必要な建物は35棟ありました。工事発注元である東京都は、アスベスト飛散防止対策のために、NGO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」に相談しました。その結果として、行政職員が養生検査と完了検査の立ち会いを実施すること、NGOがアドバイスを行うこと、が決定しました。
工事は2018年12月に始まり、最後のアスベスト除去工事は2020年3月に終了しました。工事完了までの16ヶ月間に養生検査、完了検査合わせて約400回の立ち会いが行なわれています。現場周辺では大気中のアスベスト濃度測定が実施されており、その情報は随時共有され、異常があった場合は、対策を実施して公表されました。
旧築地市場の解体工事は、自治体がアスベスト対策を積極的に行った公共工事となりました。NGOに第三者としての検査を依頼し、アスベストの飛散を防止した良好な事例だといえます。

熊本地震におけるアスベスト対策

2016年4月の熊本地震は、震度7の激震が2度も発生しており、273人の人命が失われ、約4万3000棟の住宅が全半壊の被害に遭いました。それを受けて、被災建物によるアスベスト対策のため「建築物石綿含有建材調査者協会」が設立されています。調査者協会はアスベスト含有建材が使用されている建物298棟を調査し、アスベストの飛散リスクが高い建物を特定しました。
同年8月からは、被災した建物の解体工事が本格化しました。環境省は、解体工事にともなう事前調査と、専門家による調査を徹底する通知を出しました。熊本県と労働基準監督署は、解体工事とアスベスト含有建材の取り扱いについて、監視と指導を強化しました。熊本市では、全ての解体現場の立ち入りを目標に、調査者協会メンバーと共に現場を巡回し、見落としや不適切な処置について指導しました。熊本労働局も積極的に解体工事現場の立ち会い検査を行い、アスベスト含有建材の見落としを検出しています。
これらの行政、専門家団体、NGOが協力した取り組みは、被災地のアスベスト飛散防止に大きく寄与したと評価されています。このアスベスト対策が認められ、調査者協会は環境大臣から表彰されました。

まとめ

本コラムでは、アスベスト対策の失敗事例と成功事例の両方を紹介しました。それぞれが大いに参考とするべき内容になっています。共通していることは、危険性をいち早く認識して対応することが重要だ、ということです。これらの事例を教訓として、今後のアスベスト対策に活用していただければ幸いです。

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