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なぜその部位に吹付け石綿が? 設計思想と要求性能から紐解く使用目的 1

建築物の設計では、さまざまな部位に特定の材料が選ばれます。

その中でも、過去に広く用いられた吹付け石綿は、建物の機能性を高めるために重要な役割を果たしてきました。

今回は、吹付け石綿がなぜ特定の部位に使用されたのかを、設計者の考え方や求められる性能から丁寧に紐解いていきます。

建物の耐久性や快適性を追求する中で、こうした材料の選択を振り返ることで、現在の建築実務にも役立つ洞察を得られますので、参考にしていただけると幸いです。

1、主な使用目的

吹付け石綿をはじめとする石綿含有吹付け材は、建築物のさまざまな部位で多様な性能を発揮するために選ばれてきました。

これらの材料が主にどのような目的で使われてきたかを整理しています。主な使用目的は、次のように分類されます。

  • 吸音:吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール(乾式・半湿式)、石綿含有吹付けバーミキュライト、石綿含有吹付けパーライト
    音の反響を抑え、室内の音環境を整えるために広く用いられる。
  • 断熱(空調負荷の軽減等)・結露防止:吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール(乾式・半湿式)、屋根用折板石綿断熱材(石綿フェルト・炭酸カルシウム発泡断熱材他)
    熱の出入りを抑え、空調効率を高めたり、結露による劣化を防いだりする。
  • 断熱(排ガス):煙突用石綿断熱材
    高温の排ガスから周囲を守るための特殊な断熱材として採用。
  • 保温:石綿保温材、石綿含有けいそう土保温材、石綿含有けい酸カルシウム保温材、石綿含有バーミキュライト保温材、石綿含有パーライト保温材
    配管やボイラーなどで熱を保持し、エネルギー損失を最小限に抑える役割を果たす。
  • 調湿:吹付け石綿
    湿気の多い環境で水分を吸収・放出して湿度を安定させるために使われています。
  • 仕上げ材:石綿含有吹付けバーミキュライト、石綿含有吹付けパーライト、吹付け石綿
    表面の質感を活かした装飾効果を兼ね備え、内装の美観を高める目的でも選ばれた。

上記の目的は、建物の用途や部位ごとに要求される性能を満たすために、設計者が慎重に選択してきたものです。

特に、1950年代から1970年代にかけての大型建築物で多用された背景には、耐火・耐熱・音響制御といった多機能性を一つの材料で実現できる点が大きく影響しています。

調査や改修の際には、これらの目的を念頭に置き、設計図書と現地状況を丁寧に照合することが大切です。

2、吸音を目的とした使用

吸音を目的とした吹付け石綿の使用は、建物の音環境を快適に保つための設計思想から生まれています。

騒音の発生源や利用者のニーズを考慮し、こうした部位に材料が採用されてきました。

主に、機械や設備からの騒音を抑える場所や、音質が重要な空間で、天井・壁面に吹き付けられています。

繊維の構造が音波を効果的に吸収するため、室内の反響を減らし、クリアな音環境を実現します。

具体的な使用部位の例として、次のものが挙げられます。

  • 各種機械室、ボイラー室、ファンルーム、エレベーター機械室など(天井・壁)
    設備機器の運転音が外部に漏れにくくするために施工されました。
  • 受付やホール、音楽教室、大会議場など(天井・壁)
    音響性能が求められる空間で、残響を抑え、聞き取りやすい環境を整えます。
  • 銀行などのカウンターエリア、待合室、観覧場、地下ホームなど(天井・壁)
    人々が集まる場所で、話し声や足音の反響を軽減します。
  • 共同住宅の居間(天井)
    生活音の響きを和らげ、家族の快適さを高める目的で用いられる場合もあります。

また、音響性能をさらに高めるために、石綿含有吹付けバーミキュライトやパーライトを仕上げ材と併用するケースも見られます。これにより、吸音効果に加えて視覚的な質感も向上します。

設計図書の仕上げ表、矩計図(断面詳細図)、部分詳細図、天井伏図などを事前に確認し、現地調査で実際の施工状況を慎重に検証されています。

吸音目的での使用は、単に騒音を減らすだけでなく、空間全体の価値を高めるための選択となっていました。

3、断熱(空調負荷の軽減等)・結露防止を目的とした使用

断熱と結露防止を目的とした吹付け石綿の使用は、建物のエネルギー効率を高め、快適な室内環境を長く保つための設計思想から生まれています。

特に、外部からの熱の侵入を抑え、空調機器の負担を軽減したり、結露による構造物の劣化を防いだりする点が重視されています。

主に、最上階の天井スラブ下に吹き付けられることが多く、太陽光による熱の伝導を緩和する役割を果たします。

例えば、屋上階の部屋の天井裏(スラブ下)に施工すれば、夏場の熱気が室内に伝わりにくくなり、空調負荷を効果的に減らせます。

建物の形状がセットバックしている場合、中間階でも屋根面部分が存在することがあり、その直下のスラブ下にも同様の断熱目的で吹付け石綿が適用されます。

また、北側の壁やピロティ、軒先などの外部に面した天井スラブ下にも施工される例が多く見られます。寒冷地では、外壁面全般に断熱を施すことで、冬場の冷気の侵入を防ぎ、結露の発生を抑えています。

さらに、折板屋根の場合には、石綿含有の断熱保温材(石綿フェルトや炭酸カルシウム発泡断熱材など)が使用され、屋根全体の断熱と結露防止を図ります。

これにより、雨天時や温度差の大きい環境でも、水滴の発生を防ぎ、屋根材の腐食やカビの発生を抑制します。具体的な使用部位の例として、次のものが挙げられます。

  • 屋上階の部屋の天井裏(スラブ下)
  • 建物の北側の壁(寒冷地では外壁面全般)
  • ピロティや軒先など、外部に面した天井裏、スラブ面

設計図書では、仕上げ表、矩計図(断面詳細図)、部分詳細図、天井伏図などに記載されていることが多く、我々が調査を行う時には、これらの資料を基に現地確認を徹底しています。

こうした部位の施工状況を丁寧に検証することで、建物の長期的な耐久性と省エネ性能が正しく評価されてきました。

2へ続く。
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