建築物の改修や解体を進める際、アスベストの調査は欠かせないプロセスです。過去の建築物に使用されたアスベスト含有建材は、健康被害のリスクを孕み、建築業者にとって重大な責任が伴います
石綿含有建材はレベル1からレベル3に分類され、それぞれ用途や調査の難易度が異なります。あなたの現場では、隠れたアスベストを見逃していませんか?
このコラムでは、レベル1〜3の石綿含有建材の特性と調査時の留意点を、実務で活用できる形で解説します。安全な現場づくりに役立つ知識をお届けします。ぜひ最後までご一読ください。
レベル1の石綿含有建材と調査のポイント
レベル1の石綿含有建材は、主に耐火目的で鉄骨造の柱、梁、壁に吹き付けられた建材を指します。たとえば、体育館やビルの天井に施された吹付けアスベストが代表例です。
しかし、耐火用途だけでなく、機械室や階段室の天井、屋上床裏のデッキプレートに断熱や吸音目的で施工されている場合もあります。
その中でも隠蔽部と呼ばれる見えにくい場所に使用されているケースが多く、図面だけでは特定が難しいのが特徴です。
調査の際は、まず建築図面や仕様書を確認しますが、隠蔽部の建材は記載されていないことも珍しくありません。
配管ダクトの裏や天井裏など、普段目につかない場所を念入りにチェックする必要があります。
現地調査では、懐中電灯や内視鏡を活用し、狭いスペースも見逃さないよう注意しましょう。過去の施工記録が乏しい場合、1970〜80年代の建物では特に慎重な確認が必要です。
建材サンプルを採取し、偏光顕微鏡による分析を行うことで、より正確にアスベストの有無を判断できます。
レベル2の石綿含有建材と見落としのリスク
レベル2の石綿含有建材は、鉄骨の柱や梁に耐火目的で使用されるけい酸カルシウム板(第2種)や、煙突の断熱材、配管エルボ部の保温材などに多く見られます。
これらの建材は、設備関連の用途が中心で、建築図面や仕様書に詳細が記載されていない場合が少なくありません。ボイラー室や空調設備の周辺に隠れている可能性が高く、書面だけでは見落とすリスクがあります。
現地確認が特に重要なのはこのためです。煙突や配管の断熱材では、表面を金属カバーで覆われていることが多く、見た目ではアスベストの存在を判断できません。
調査時には、カバーを慎重に開けて確認するか、専門の分析機関にサンプルを依頼する必要があります。また、設備の改修履歴を建築物所有者からヒアリングすることも有効です。
これは過去の改修で断熱材が交換された場合、図面に反映されていない可能性があるためです。
レベル2建材は、用途が限定的に見える一方で、隠れた箇所に潜むリスクを見逃さない注意力が求められます。
レベル3の石綿含有建材と多様な用途への注意
レベル3の石綿含有建材は、レベル1や2に比べて用途が多岐にわたり、内装材や仕上げ材として使用されることが特徴です。
たとえば、ビニル床タイル、壁紙、吸音パネル、防水材など、不燃性が求められる箇所だけでなく、意匠性や吸音性、防水性を目的とした箇所にも使われています。
この多様性が、調査の難易度を高めています。たとえば、オフィスビルの内装壁やホテルのロビーの装飾パネルに、アスベスト含有の仕上げ材が使用されている場合があります。
特に注意が必要なのは、建築後の改修や用途変更に伴う建材の変更です。竣工図書に記録されていない仕上げ材が、後から追加されているケースが頻繁にあります。
間仕切り壁の新設や部屋のレイアウト変更で、隠し部屋やデッドスペースが生じ、そこにアスベスト含有建材が潜んでいる可能性があります。
現地調査では、図面の情報に頼りすぎず、実際に壁を軽く叩く、表面を観察するなど、細かな確認が欠かせません。
建築物所有者へのヒアリングを通じて、改修履歴や使用状況を把握することも、リスクを見逃さないための重要なステップです。
効果的な調査手法と安全対策の実践
アスベスト調査を成功させるには、計画的なアプローチと法令遵守が不可欠です。
まず、レベル1〜3の建材を対象に、建築図面や竣工図書の確認から始めますが、書面情報が不完全な場合が多いため、現地調査を徹底します。
隠蔽部や設備周辺では、内視鏡やドローンを活用した非破壊検査が有効です。サンプル採取時には、飛散防止のため湿式処理を行い、作業員には防塵マスクと保護服を着用させます。
石綿障害予防規則に基づく作業計画の策定と、労働基準監督署への届出も忘れてはなりません。解体工事前にアスベスト含有が判明した場合、作業エリアの隔離やHEPAフィルター付き集塵装置の設置が必要です。
改修履歴のヒアリングでは、具体的な質問を用意し、過去の工事時期や範囲、用途変更の有無を詳細に確認します。専門機関との連携も重要で、分析結果を基にリスク評価を行い、綿密な除去計画を立てましょう。
まとめ
アスベスト調査は、建築業者にとって安全な現場環境を確保するための不可欠なステップです。
レベル1からレベル3の石綿含有建材は、それぞれ異なる用途や特性を持ち、隠蔽部や改修による建材の変更など、見落としやすいリスクが潜んでいます。
安全を守るためには、慎重な調査と適切な対策が欠かせません。今回の解説では以下の行動をおすすめしています。
建築図面だけでなく、隠蔽部や設備周辺を丁寧に現地調査する。
改修履歴の確認
建築物所有者から改修履歴や使用状況を詳細にヒアリングする。
飛散防止の徹底
湿式処理や防塵マスクを活用し、アスベストの飛散を徹底的に防止する。
法令遵守と専門連携
石綿障害予防規則を遵守し、専門機関と連携して正確な分析を行う。
過去の建築物に潜むアスベストのリスクを軽視せず、丁寧な調査と対策を行うことが、不可欠です。