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現場の安全を守る!石綿繊維濃度の測定技術を徹底解説

石綿(アスベスト)は、その微細な繊維が空気中に飛散しやすく、吸入すると健康被害を引き起こす危険性があります。そのため、作業現場や周辺環境の安全を確保するには、正確な石綿繊維濃度の測定が不可欠です。

現在、測定にはさまざまな顕微鏡技術が用いられ、それぞれに特徴や適用範囲があります。今回は、位相差顕微鏡から電子顕微鏡まで、石綿繊維濃度の測定技術を詳しく解説していきます。

 

1. 位相差顕微鏡法によるアスベスト濃度の測定

位相差顕微鏡法(PCM法)は、空気中の繊維の数を測定する基本的な方法です。まず、空気を特殊なフィルターでろ過し、フィルターに付着した繊維を透明にする処理を行います。

その後、位相差顕微鏡を使って、長さ5µm以上、幅3µm未満の細い繊維を数えます。この方法では、アスベストかどうかを区別せず、すべての繊維を合計した「総繊維数濃度」として結果が示されます。

ただし、アスベストの種類まで特定したい場合は、他の顕微鏡分析(偏光顕微鏡法、蛍光顕微鏡法、ラマン顕微鏡法、電子顕微鏡法など)を併用する必要があります。これにより、例えば「クリソタイル濃度」といった具体的なアスベストの種類ごとの濃度を測ることができます。

測定方法を選ぶ際には、測定場所や目的に応じてフィルターの種類や吸引する空気量、測定時間を調整することが重要です。また、関係機関によって数値の表現方法が異なる場合があるため、基準をよく確認する必要があります。

 

2. 位相差/偏光顕微鏡法によるアスベストの識別

位相差/偏光顕微鏡法は、空気中の繊維の数を数えるだけでなく、それがアスベストかどうかを判別するための方法です。

まず、位相差顕微鏡を使って繊維を確認し、その後、偏光顕微鏡に切り替えて観察します。偏光顕微鏡では、光の特性を利用してアスベスト特有の性質(多色性や複屈折など)を調べることができ、非アスベスト繊維との識別が可能になります。

この方法は、建物の解体現場などで特定の種類のアスベストが含まれている可能性が事前に分かっている場合に特に有効です。また、PCM法で使用したのと同じフィルターを使えるため、追加のサンプル採取をしなくても分析できる利点があります。

ですが、すべての種類のアスベストを正確に特定できるわけではないため、より詳しい分析が必要な場合には、電子顕微鏡やラマン顕微鏡などの高度な方法と組み合わせることが推奨されます。

 

3. 蛍光顕微鏡法による微細なアスベスト繊維の検出

蛍光顕微鏡法は、特殊な蛍光物質を使ってアスベスト繊維を識別する方法です。この手法では、アスベストに結合する蛍光タンパク質を用いることで、通常の顕微鏡では見えないほど細い繊維(幅30ナノメートル程度)まで検出できます。

特に、ロックウールなどの非アスベスト繊維と区別しながら、クリソタイル(白石綿)や角閃石系アスベストの識別が可能です。

ただ、角閃石アスベストの種類を細かく特定するのは難しく、また、一部の炭化ケイ素繊維などアスベスト以外の物質も蛍光を発するため、判別が困難になります。

この方法は、PCM法と同じフィルターを使えるため、追加の処理が不要で、現場での迅速なアスベスト確認に適しています。ただし、蛍光は時間とともに薄れるため、短時間で観察する必要があります。

 

4. 位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡を組み合わせたアスベスト検出法

位相差/蛍光顕微鏡法は、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡の両方を活用してアスベストを特定する方法です。まず、位相差顕微鏡で繊維状の粒子を確認し、その後、蛍光顕微鏡で光るかどうかを調べることで、アスベストかどうかを判断します。

この方法のメリットは、極めて細いアスベスト繊維も識別できることと、有機繊維とクリソタイル(白石綿)の違いを明確にできることです。注意点として、蛍光を発する物質は他にもあるため、必要に応じてUV光を使った追加の分析を実施します。

この手法は、位相差顕微鏡単独では判別が難しい場合でも、より正確にアスベストを特定できるため、現場での迅速な検出に役立ちます。

 

5. 位相差顕微鏡とラマン顕微鏡を組み合わせたアスベスト分析

位相差/ラマン顕微鏡法は、位相差顕微鏡で繊維を観察した後、ラマン顕微鏡を使ってその成分を分析する方法です。ラマン顕微鏡は、光を当てたときに物質が示す特徴的な波長(ラマンスペクトル)を調べることで、アスベストの種類を特定できます。

この手法のメリットは、非常に細かい繊維でも識別できることと、事前にどの種類のアスベストが含まれているかを知らなくても分析が可能なことです。ですが、一部のアスベスト(アモサイトとクロシドライト、トレモライトとアクチノライトなど)は似たスペクトルを持つため、完全に区別できないこともあります。

この方法は、より詳細なアスベスト分析を行う際に有効で、位相差顕微鏡単独では判別が難しい場合に適しています。

 

6. 電子顕微鏡を使った高精度なアスベスト分析

電子顕微鏡は、非常に高い倍率で微細な物質を観察できる装置です。通常の光学顕微鏡では見えないナノメートル(1mmの100万分の1)レベルのアスベスト繊維も検出できるため、より正確な分析が可能です。

電子顕微鏡には、表面を詳細に観察する「走査電子顕微鏡(SEM)」と、繊維の内部構造まで確認できる「透過電子顕微鏡(TEM)」の2種類があります。さらに、元素分析ができる特殊な電子顕微鏡を使えば、アスベストの種類まで特定することができます。

この方法は、特に微細なアスベストを詳しく調べる必要がある場合に有効で、位相差顕微鏡などで確認したサンプルをさらに詳細に分析する際に活用されています。

 

まとめ

アスベストの濃度測定には、位相差顕微鏡法をはじめ、偏光顕微鏡法、蛍光顕微鏡法、ラマン顕微鏡法、電子顕微鏡法など、さまざまな技術が用いられます。それぞれの手法には特長があり、測定の目的や環境に応じた適切な選択が重要です。

電子顕微鏡法は高精度な分析が可能で、リスク評価に不可欠な技術となっています。安全な作業環境を確保するためにも、これらの測定技術を正しく理解しておきましょう。

 

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