作業場の負圧隔離養生
負圧隔離養生とは
作業場を密閉し、集じん・排気装置で負圧状態を維持することで、アスベスト繊維の飛散を抑制し、作業者や周辺環境へのばく露を防ぐ対策です。
アスベスト除去作業では、作業場を負圧隔離養生することが重要です。これにより、作業中のアスベスト繊維の飛散を防ぎ、作業者や周囲の人々の健康を守ることができます。
今回はアスベスト除去作業における、作業場の負圧隔離養生について詳しく解説していきます。
1)負圧隔離養生の目的
負圧隔離養生の目的は、アスベスト除去作業によって発生するアスベスト繊維が作業場外に拡散するのを防ぎ、作業員以外の立ち入りを制限することにあります。
2)負圧隔離養生の成立
負圧隔離養生は、作業場をプラスチックシートなどで密閉し、集じん・排気装置を使って作業場内を外部よりも低い圧力にすることで成立します。ただし、隔離シートが破れたり、作業場内の圧力が正常でなくなると、アスベストが外に漏れる危険が高まってしまいます。
除去作業が始まる前に、石綿作業主任者や現場責任者の監督の下で、設備のダクトや集じん・排気装置の排気ダクトとプラスチックシートの接合部など、外部への漏れの危険がある箇所を中心に、隔離がしっかりと行われているか確認します。集じん・排気装置を稼働させ、手で触って確認したり、スモークテスターを使用してしっかりと点検を行います。
3)負圧隔離養生の方法
作業場の負圧隔離養生では、一般的にプラスチックシートが使用されます。
プラスチックシートなどの負圧隔離養生には、破損を防ぐために十分な強度が必要です。壁に使用する場合は厚さが0.08mm以上、床に使用する場合は0.15mm以上のシートを2枚重ねることが推奨されています。
現場責任者がアスベスト除去作業の進行状況を把握するには、視認性を向上させるためにも、プラスチックシートは透明なものを使用する。もしくは覗き窓を設けることが望ましいです。
作業場への立ち入りは作業者に制限されるため、現場責任者も入れません。そのため作業状況を把握することは困難です。対策案として、透明なプラスチックシートなどを利用すれば、隔離された外部からでも作業状況を比較的容易に確認できるので、作業の施工管理や安全管理が円滑に行えるでしょう。
負圧隔離養生は、アスベストが外部に飛散するのを防ぐために、セキュリティゾーンへの出入口以外の扉、窓、換気口、空調吹出口など、アスベストが外部に飛散する可能性がある場所の全てに目張りをして、室内を密閉します。
隔離空間では建材の表面が確認できるように、充分な明るさを確保しましょう。
明るい作業環境は、外部へのアスベスト粉じんの漏れの危険性の低減や、隔離空間での正確な確認作業、吹き付けアスベストの除去漏れ防止のためにも必要となるでしょう。
4)負圧隔離養生の計画
負圧隔離養生を行う際には、建築物の構造上外部に通じる隙間がないかを目視や設計図書などで事前に確認しましょう。その上で、外部にアスベスト流出を防ぐために対策を講じる必要があります。
作業場の負圧隔離養生範囲が広いほど、作業終了後の片付けや清掃範囲も広がり、粉じんの飛散範囲が広がり、外部への飛散のリスクも高まります。
また、負圧隔離養生範囲が広がると、作業場内の負圧の維持管理や汚染空気の集じん排気が難しくなるため、一般的には、除去する建材の範囲や作業性が許す限り、範囲を狭くすることが望ましいです。
なおかつ、隔離空間内での除去作業が長期間にわたると、負圧隔離養生の維持が困難になるため、作業時間をできるだけ短くするよう心がける必要があります。
設備機械室など、他の場所から分離された室内で天井や壁を取り除く場合は、その室内全体に負圧隔離養生を行います。広い室内の天井を除去する場合は、適度なサイズの作業場に分割し、負圧隔離養生を行います。
分割の基準は、工事の進行、負圧隔離養生の容易さ、仮設設備の組み立て範囲、作業者や資機材、廃棄物の移動経路などを考慮して計画しましょう。例えば、工事の進行に応じて区切って作業を行う場合は、1日の作業量を基準に負圧隔離養生の範囲を設定します。
テナントが入居しているビルで除去作業を行う場合は、テナントスペースの広さや、家具や備品の移動範囲、養生範囲などを考慮して負圧隔離養生の範囲を設定し、テナント間の移動にも配慮します。
アスベスト含有吹き付け材がある天井板を取り除く際には、天井板に付着したアスベストの粉じんが飛散しないように、天井板を取り外す前に負圧隔離養生を行います。
また、アスベスト含有吹き付け材の周辺に設置されている、照明などの付属設備を取り除く際にも、アスベストに接触してアスベストの粉じんが飛散するおそれがあるため、設備を取り外す前に負圧隔離養生を行いましょう。
5)建築物外部への飛散防止措置(外部に面する開口部を隔離する場合)
建築物の外壁に接して負圧隔離養生を行う場合、ガラス窓がある場合は窓を閉鎖し、外壁や窓の内側を保護して除去作業を行うことが望ましいです。ただ、建物外部に直接面した大きな開口部がある場合(例えば、自走式の立体駐車場など)、通常の負圧隔離養生では風圧によって破損し、アスベストが飛散するおそれがあります。
このような場合、建物の周囲に足場を組み立て、防音パネルや防炎シート、メッシュシートで保護する方法や、開口部を防炎シートやメッシュシートで閉鎖する方法などを取るとよいでしょう。
さらに、作業場内では別途負圧隔離養生を行うことも有効です。ただし、可能な限り外部の自然光を取り入れるために、素材の選択や組み立て方を工夫することで、作業環境を改善することも必要です。
6)作業場内部に残る設備等のアスベスト繊維の付着防止養生
作業場内には、移動できない機械設備(エアコンや空調機器、制御盤、照明器具など)や什器備品がある場合は、これらがアスベストで汚染されないようにプラスチックシートなどで覆いましょう。
ただし、作業中に作業者が接触することでプラスチックシートが破れる可能性がある角部は、あらかじめクッション材(ウェスやエアキャップなどの保護材)で覆うなどの対策が必要です。
移動可能な家具や事務机、事務用機械などは、原則として作業場外へ搬出します。また、熱を発散する機器は部分的に開放し、熱を逃がすための工夫が必要です。
稼働中の機械(例えば、エレベーター機械など)は原則として停止させてから除去作業を行いますが、やむを得ない場合には、除去作業中の接触やアスベストの付着を防止するために、強度のある仮設機材を使用しましょう。
まとめ
今回は、アスベスト除去作業における負圧隔離養生について解説しました。
理解しておくべき項目は以下の4つです。
負圧隔離養生の目的は、アスベスト除去作業中に出る繊維を防ぎ、作業員以外の立ち入りを制限すること。
・負圧隔離養生の成立
負圧隔離養生は、作業場を密閉し、内部の圧力を外部よりも低く保つことで行われる。
隔離シートの破損や内部の圧力の異常により、アスベストが外に漏れる危険が高まる。
・負圧隔離養生の方法
負圧隔離養生では、通常プラスチックシートが使われている。
シートの強度は破損を防ぐために重要で、壁には0.08mm以上、床には0.15mm以上の厚さのシートを2枚重ねるのが一般的。
・負圧隔離養生の計画
負圧隔離養生では、外部に通じる隙間がないか確認し、外部にアスベストの流出を防ぐ必要がある。
作業範囲が広いと片付けや清掃が難しくなるため、範囲を狭めることが望ましい。
リスク低減のために、なるべく作業期間を短くすることにも留意する。
上記の点を正しく理解して、作業場の負圧隔離養生を実施することが肝要です。