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あと施工アンカーの標準的な適用範囲

あと施工アンカーの種類分類と品質確認

あと施工アンカーは、金属系アンカー(金属拡張アンカー、金属拡底アンカー)および接着系アンカーの3種類に分類し、品質が確認されたものを使用します。

>>アンカー種類の詳しい解説はこちら

金属拡張アンカーは、穴に挿入または締め付けて、先端を広げて摩擦力でコンクリートに固定するタイプです。

金属拡底アンカーは、穴の底部で先端を大きく広げ、機械的なかみ合いでコンクリートに固定します。

接着系アンカーは、密封されたカプセルまたは直接充填方式で接着剤を使用し、硬化した接着剤がコンクリート孔の内壁とアンカー筋の間で固定力を生む仕組みです。

対象となるあと施工アンカーは、材質や部品などの品質が確認されていて、あと施工アンカー部の耐力や変位性状(接着系アンカーでは接着剤の付着強度も含む)などの力学的特性が明確に把握されているものとします。

製品認証制度としては、一般社団法人日本建築あと施工アンカー協会(以下、JCAAと略記)や海外の学協会による製品認証制度が存在します。

金属拡底アンカーや注入方式の接着系アンカーは、一部の製品がJCAAの工法・製品認証を取得していますが、その数は限られています。

JCAAの製品認証等の認証を受けていない製品については、品質が確認されたあと施工アンカーを選択しなければなりません。

環境条件と標準外使用の注意

あと施工アンカーは一般的な環境での使用を標準とします。

一般的な環境とは、降雨の影響を受けない、かつ塩害、凍害、化学的侵食のリスクが低い条件を基準とし、それ以外の状況での使用は標準外としています。

理由としては、施工中にアンカー部やアンカーボルトの鋼材腐食、母材の凍結融解や化学的侵食が生じたり、高温下に置かれると、アンカーとコンクリートの一体性が損なわれる可能性があることによります。

そのような懸念がある場合、使用環境を事前に確認して措置を講じることが重要となってきます。塩害が懸念される場合は耐腐食性のあるアンカーを、凍害の懸念がある場合は水の滞留を防ぐ処置を行うなど、標準外の状況に対処できるように備えましょう。

接着系アンカーについても、アルカリ環境での耐久性など、特に接着剤の耐アルカリ性を確認して、必要な品質を確保することです。

あと施工アンカーの耐力評価と破壊モード

あと施工アンカーは、静的な引張力とせん断力が、同時にまたは単独でかかる場合に機能します。

アンカー部の破壊は、母材のコンクリートの破損、母材とアンカーボルトの付着破損、アンカーボルトの降伏後の破断、いずれかが発生しています。

安全性を確保するためには、静的な引張力とせん断力が、同時または単独でかかる場合の破壊モードに対する耐力評価式を組み合わせます。

なお、評価はアンカーとその固定母材のコンクリート部分が対象であり、機器や他の取り付け具は含まれませんので、これらがアンカー部の耐力に影響を与える場合は、その影響も考慮しましょう。

あと施工アンカーの適用対象

あと施工アンカーは、吊り下げる付帯設備への使用は原則禁止で、大きな荷重の繰り返しや疲労、衝撃を受ける場所は避けましょう。

適用対象は、一時的な設備や機器を取り付ける場合で、静的な負荷のみに対応しています。静的な負荷は、通常、変動がほとんどない死荷重のようなものです。

一方で、動的な負荷には適用できません。地震、衝撃、振動、繰り返し荷重のような連続的かつ頻繁に発生する動的な負荷は、平均値に対して変動が大きいもので、風荷重などもこれに含まれます。

特に、設備が柔軟で変位や振動が予測される場合には、動的な負荷として考慮する必要があります。

現在、あと施工アンカー部の長期的な性能についての理解が不足しており、その性能を予測することが難しいという問題があります。

そのため、長期間にわたって付帯設備の吊り下げに適用することは、あと施工アンカー部の破損による影響が予測できないため、望ましくありません。ただし、一時的にコンクリートブロックを吊り下げる場合など、短期間の使用であれば大丈夫でしょう。

また、地震の影響や大きな荷重の繰り返し、衝撃、振動、疲労が懸念される部分についても、十分な情報が蓄積されていないため、適用範囲外としたほうがよいでしょう。

なお、大きな荷重の繰り返しとは、あと施工アンカー部に静的な耐力の4割以上の軸引張力やせん断力が繰り返し作用する場合を指します。

高圧縮強度コンクリートにおけるあと施工アンカーの注意事項

あと施工アンカーを固定する母材には、設計基準強度が18N/mm²以上で、ひび割れや豆板がなく、健全性が確認された普通コンクリートを使用します。

JCAAの認証基準は圧縮強度18〜36 N/mm²ですが、36 N/mm²を超える場合でも、載荷試験で性能が確認できたアンカーに関しては48 N/mm²まで対応可能です。

ただし、コンクリートの圧縮強度が高い場合、あと施工アンカーを確実に固定できず、設計の耐力を得ることが難しいかもしれません。

そのため、適用範囲を超える高い圧縮強度の母材のコンクリートにあと施工アンカーを使用する場合は、試験を行い、アンカー部の性能を確認する必要があります。

なお、高強度コンクリートや軽量骨材コンクリートにあと施工アンカーを使用する場合は、アンカーを設置する母材のコンクリートの健全性も確保する必要があります。

特に、適用開始後に発生する可能性のあるひび割れについては、コンクリート構造物の耐久性を維持する観点から、許容できるひび割れ幅を超えないように注意が必要です。

理由として、ひび割れが発生すると、あと施工アンカーの耐力が低下する可能性があるからです。そのため、施工時はひび割れが発生するおそれのある場所を避けてアンカーを設置しましょう。

ひび割れが発生する可能性がある箇所としては、乾湿繰返しを受ける環境や、過大な荷重がかかる際に母材のコンクリートが挙げられます。したがって、現況確認や現地調査を通じて、適用開始後のひび割れ発生に注意することが重要です。

アンカーボルトの規定外径と種類

外径条件

アンカーボルトの外径は、8mm以上かつ25mm以下と規定されています。

種類指定

あと施工アンカーのアンカーボルトは、M8からM24までの全ネジボルト、またはD10からD25までの異形鉄筋を使用します。

あと施工アンカーの埋め込み長さについての規定

金属系アンカー

金属系アンカーの場合、埋め込み長さは30mm以上とします。

接着系アンカー

接着系アンカーの場合、埋込み長さはアンカー筋の呼び径の7倍以上と規定されています。

この埋め込み長さは、アンカーの設置位置におけるコンクリートのブリーディングによる脆弱な層の影響を考慮しています。

埋め込み長さが長いアンカーを使用する場合には、金属拡張アンカーは80mm、接着系アンカーはアンカー筋の呼び径の15倍として、設計耐力を求めることとされています。

ただし、埋め込み長さが長いアンカーを部材厚が薄い箇所に使用する際には、構造物や部材の耐力や変形性状に与える影響を考慮する必要があります。

まとめ

あと施工アンカーの適用範囲を理解することは、安全かつ効率的な建設プロジェクトの重要な要素です。アンカーは、建物や構造物の安定性を確保し、長期間の安全な使用を支えます。しかし、その適用範囲を誤ると、重大なリスクを招く可能性があります。

あと施工アンカーの使用に際しては、専門家の助言と慎重な計画が不可欠です。安全第一の原則を念頭に置いてプロジェクトを成功に導くために、あと施工アンカーの適用範囲に対する理解は欠かすことができないでしょう。

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