接着系アンカーは、コンクリート構造物に後付けで強固な固定を行うための施工技術です。その性能を十分に発揮させるには、正確な施工と品質管理が求められます。
今回は、接着系アンカーのセット試験について、供試体の準備から試験方法、結果の評価までを詳しく解説します。
正しく試験を行うことで、施工の的確さが保証でき、トラブルを未然に防げます。施工現場で役立つポイントを分かりやすくまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
1. 接着系アンカーのセット試験法
接着系アンカーのセット試験法は、アンカーの付着強度を評価するための試験方法であり、JCAA(日本建築あと施工アンカー協会)が定める基準にしたがって実施します。
試験では、アンカーの付着破壊が先行するように設計されたモルタルモールドとアンカー筋を用いたモルタルアンカー供試体を使用し、引張試験によって性能を評価します。
試験の種類は、接着系アンカー周囲を拘束した状態で行う引張試験(付着強度試験)です。対象となる接着系アンカーには、カプセル型および注入型が含まれ、アンカー筋には高強度材質の全ねじボルトを使用します。
モルタルモールドとは
モルタルを流し込んで型を作るための型枠。用途としては、ガーデニングの歩道や敷石、エントランスなどのDIYなどに利用されています。
2. 供試体の準備
接着系アンカーのセット試験では、正確な供試体を準備することが重要です。供試体は、モルタルモールドに接着系アンカーで固着されたアンカー筋で構成され、正確な付着強度試験を行うために、以下のさまざまな材料を使用して作製します。
鋼管
供試体に使用する鋼管は、高圧配管用の炭素鋼鋼管を標準とし、外径89.1mm、厚さ6.6mmの仕様とします。この鋼管は、モルタルモールドの枠として機能し、供試体の形状や強度を一定に保つ役割を果たします。
モルタル
供試体のモルタルには、プレミックスタイプの普通モルタルを使用し、設計基準強度は21N/mm²以上とします。試験時の圧縮強度を確認するため、供試体と同時に直径50mm×高さ100mmほどのテストピースを作製し、圧縮試験を行います。
ガイド用スチール
ガイド用スチールは、供試体製作時にモルタルモールドに装着し、アンカー孔の穿孔やアンカー打設の際のガイドとして使用します。これにより、試験ごとの精度を向上させ、均一な試験環境を確保することが可能となります。
供試体の製作手順
まず、平板上に鋼管をセットし、モルタルを打設します。その後、4週間ほど封かん養生を行い、十分に硬化させます。次に、モルタルモールドにガイド用スチールを装着し、アンカー孔の穿孔を実施します。最後に、接着系あと施工アンカーを施工し、ガイド用スチールを脱型することで供試体が完成します。
同一モルタルを使用した供試体を5本分、試験を実施することで、データのばらつきを抑えられ、精度の高い試験結果を得ることができます。
封かん養生とは
封かん養生とは、コンクリートやモルタルから水分の出入りを防ぐために、ポリフィルムなどのシートで供試体を覆う養生方法です。具体的には、直射日光が当たらない場所に保管し、硬化させるために時間をおきます。この封かん養生によって、コンクリートやモルタルの硬化過程の水分管理が可能になります。
3. 試験装置の構成
試験装置は、大きく分けて「載荷装置」「荷重計測装置」「変位計測装置」の3つの要素で構成されています。それぞれの装置がどのような役割を持つのかを説明します。
載荷装置
載荷装置は、アンカーに引張力(引っ張る力)を加えるための装置です。
主に、引張力を発生させる部分と、その力を支える「支圧板」という部分で構成されています。場合によっては、万能試験機を使って載荷を行うこともあります。
この装置は、アンカーをまっすぐ引っ張れるように設計されており、試験で必要とされる最大荷重よりも十分な強度を持っていること、また、引張力を一定の速度でスムーズに加えられる機能が求められます。
支圧板はアンカーの周囲を固定し、試験精度の確保に重要な役割を果たします。
荷重計測装置
荷重計測装置は、アンカーにどれだけ力が加えられたかを測定する装置です。
アンカーがどの程度の荷重で引き抜かれるのかを評価するためには、試験で想定される最大荷重に対して十分な測定範囲と、高い計測精度が求められます。
測定値の誤差を最小限に抑えることで、正確な試験結果を得ることができます。
変位計測装置
変位計測装置は、アンカーが引っ張られた際にどのくらい移動(変位)したかを測定する装置です。
正しく測定するためには、測定範囲が広く、精度の高い装置を使用する必要があります。
変位計測装置は設置する場所にも注意が必要です。供試体が変形してしまうような位置だと、測定結果に余計な影響を与えてしまいます。
測定は、アンカーの軸方向に対して左右対称に2箇所以上で行うことで、より信頼性の高いデータを得ることができます。
4. 試験の方法
初めにモルタルアンカー供試体を載荷装置にセットします。供試体が正しく固定されたことを確認した後、荷重計測装置および変位計測装置を設置し、計測の準備を整えます。
装置の固定点は、供試体の変形の影響を受けないよう慎重に調整し、試験中に安定したデータが取得できるように配慮します。
供試体のセットが完了したら、所定の載荷速度で接着系アンカーの軸方向に連続的に引張力を加えていきます。
試験中は、アンカーが引き抜かれるまで一定の速度で荷重を増加させて、試験の条件を一定に保ちます。荷重の加え方が不均一になると、荷重の条件が変わるので結果に誤差が生じてしまいます。
試験中は、荷重と変位を同時に計測し、リアルタイムで記録を行います。計測された最大荷重をもとに、接着系アンカーの付着強度を算出します。
試験が終了したら、アンカーの破壊状況を確認して、写真を撮影して記録します。破壊の様子を記録することで、今後の評価や比較を行う際の参考資料とすることができます。
まとめ
今回は、試験の目的や供試体の準備、試験装置の構成、試験方法について詳しく解説しました。
試験では、正確な供試体を用い、正しく設置された試験装置のもとで、一貫した手順に従って荷重を行う必要があります。
計測を正確に行い破壊状況を記録することで、接着系アンカーの性能を数値的に評価できるだけでなく、さらなる分析も可能となるでしょう。