創意工夫と確かな技術で未来につなげる

アスベストに代わって使用されている建材とは?

かつて「奇跡の鉱物」と呼ばれたアスベスト(石綿)は、耐熱性・耐久性・断熱性に優れた性質から、長年にわたり建材として広く使用されてきました。

しかしその一方で、肺がんや中皮腫など深刻な健康被害を引き起こすことが明らかになり、現在ではその使用が全面的に禁止されています。

こうした背景のもと、建築業界ではアスベストに代わる新たな建材の開発と導入が進められました。

今回は、アスベスト規制の流れとともに普及した代表的な代替建材について、使用部位や特徴に応じて整理しながら紹介していきます。

アスベスト規制の歴史と代替建材普及の流れ

アスベストを含む建材への規制は、1975年(昭和50年)から段階的に強化されてきました。

当初は石綿含有率が5重量%を超えるものが規制対象でしたが、1995年には1重量%超、2006年には0.1重量%超へと基準が厳格化されていきます。

このように、法令の整備とともにアスベストの使用量が減少し、より安全な材料への置き換えが進みました。

この規制強化に呼応して、建材メーカーや施工業界では代替素材の開発が急速に進められました。耐熱性や断熱性といった機能を保ちつつ、健康リスクのない素材が求められた結果、ロックウール、ガラス長繊維、パルプ、ワラストナイトなど、多様な代替建材が登場しました。

これらは現在でも多くの建築物で使われており、アスベストに代わる新しい標準となっています。

レベル1の代替建材 ─ 吹付け材の変遷

レベル1に分類される「吹付け材」は、建物の天井裏や柱などに使用される断熱・耐火材で、かつては石綿含有率60〜70%の乾式吹付け石綿が一般的でした。

これは極めて高濃度の石綿を含んでおり、飛散性も高く、作業者の健康に重大な影響を及ぼす建材でした。

その後、まずは石綿を一部ロックウールに置き換えた石綿含有ロックウール(含有率1〜30%)が使用されるようになり、最終的には石綿を一切含まない吹付けロックウールへと移行しました。

このように、吹付け材の代替は段階的に進められ、建材の石綿含有率は年々低下しています。

この変化を読み取るうえで重要なのが、建物の竣工年です。例えば1980年代の建物では低含有タイプが、1990年代以降の建物では非含有タイプが使われている可能性が高く、現場調査や改修工事の際には年式による確認が欠かせません。

レベル2の代替建材 ─ 断熱材・保温材・耐火被覆材

レベル2の建材には、断熱材、保温材、耐火被覆材などが含まれ、煙突周辺や屋根裏、鉄骨の火災対策などに使用されています。

これらの建材もかつては石綿を含んでいましたが、現在ではすべて石綿を含まない代替素材に置き換えられています。

たとえば、煙突用や屋根用の石綿含有断熱材は、完全にガラス長繊維に置き換えられました。また、代表的な保温材である石綿含有けい酸カルシウム保温材も、同様にガラス長繊維を使用した非含有品へと移行しています。

これらは石綿の含有率が比較的低かったため、比較的早い段階でスムーズな代替が可能でした。

さらに、鉄骨の耐火被覆として広く使われていたけい酸カルシウム板(第2種)についても、石綿の代わりにガラス長繊維やパルプが使用されており、現代の建材では石綿を一切含んでいません。

これにより、建築物の耐火性能を維持しながら、作業者や居住者の健康リスクが大幅に低減されています。

レベル3の代替建材 ─ 成形板に使用される代替繊維

レベル3に分類される成形板は、屋根材や外壁材、内装下地材などに広く使用されてきた建材で、特に石綿含有スレートやけい酸カルシウム板第1種が代表的です。

石綿含有スレートは、当初その強度や耐久性の面から石綿を主原料としていましたが、法規制の進展により、まずはパルプ等の繊維を一部混合して石綿含有率を低減。その後、石綿の使用禁止にともない、ビニロン繊維、ワラストナイト、パルプ等を代替材料として使用する非含有製品へと完全に移行しました。

一方、けい酸カルシウム板第1種は、強度や耐火性能が求められる場面で使用されていたため、かつてはアモサイトとクリソタイルの両方の石綿が使われていました。

2005年にアモサイトの使用が禁止された後も、一部の製品ではクリソタイルとパルプ等を用いた形で供給が継続されていたと考えられます。

そして、2006年に石綿自体が全面的に禁止されたことにより、代替素材としてワラストナイトやパルプ等が用いられた非石綿製品へと完全に置き換えられました。

このように、成形板の代替は石綿規制の段階に応じて進められており、製品の種類や製造時期によって石綿含有の有無が異なるため、改修時には慎重な確認が求められます。

まとめ 代替建材の理解が安全な作業と調査の第一歩

アスベストの健康被害が社会問題化して以降、建築業界では多くの代替建材が開発され、現場に普及してきました。

レベル1からレベル3まで、それぞれの建材に適した非アスベスト素材が選定・採用されることで、現代の建築物はかつてよりはるかに安全性の高い環境が整っています。

しかし一方で、過去に建てられた建物には依然として石綿含有建材が残されている場合も多く、どの時期にどのような建材が使われていたのかを把握することが、安全な改修工事やアスベスト調査の基本となります。

代替建材の種類や使用時期を正しく理解し、適切な対応を行うことが、作業者と利用者の健康を守るうえで極めて重要といえるでしょう。

  • B!