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吹付けバーミキュライトのアスベストリスクと安全対策

建築現場で広く使われてきた吹付けバーミキュライト。その軽量性や断熱・吸音・不燃の特性から、かつて多くの建物で採用されました。しかし、この素材に潜むアスベストのリスクが、現代の建築業者にとって見過ごせない課題となっています。

このコラムでは、吹付けバーミキュライトのアスベストリスクを明らかにし、建築業者が実務で活用できる安全対策を解説します。知っておくべき基礎知識から具体的な対応策まで、わかりやすくお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

吹付けバーミキュライトとは?

吹付けバーミキュライトは、天然のけい酸塩鉱物であるバーミキュライトを800〜1,200℃の高温で焼成し、5〜20倍に膨張させた軽量骨材です。

白銀色から黄金色を帯びた美しい外観と、比重0.08〜0.4という軽さが特徴です。この素材は、断熱性、吸音性、不燃性に優れており、セメントや特殊バインダーと混合して壁や天井に吹き付ける施工法で広く使われてきました。

例を挙げると、体育館やオフィスビルの天井に施されたキラキラした仕上げを思い浮かべると、そのイメージが湧きやすいかもしれません。

この素材の歴史は、1952年にアメリカのゾノライト社から輸入が始まったことに遡ります。当時、吹付け工法と電着工法という二つの施工法が存在したとされています。

吹付け工法は、セメントやプラスターと水練りして吹き付ける方法で、ゾノライト社の「ゾノライト吸音プラスター」が代表例です。

一方、電着工法は静電気を利用してバーミキュライトをコンクリート面に付着させる手法で、住宅公団の団地などで見られます。

しかし、当時の関係企業が現存しないため、詳細な施工記録や製品情報は乏しく、現代の建築業者にとってリスク管理の難しさが課題となっています。

代表的な製品には「ミクライトAP」や「バーミックスAP」などがあり、これらの名前は古い建物の図面や仕様書で目にするかもしれません。

こうした特性と歴史を理解することは、アスベストリスクを見極める第一歩です。

アスベスト含有のリスクとその実態

吹付けバーミキュライトに潜む最大のリスクは、アスベストの含有です。アスベストは、天然鉱物由来の不純物としてバーミキュライトに混入する場合と、結合材として意図的に添加された場合の二つのケースがあります。

特に、アメリカ・モンタナ州のリビー鉱山産のバーミキュライトは、トレモライトに近いウィンチャイトやリヒテライトといった角閃石系の繊維状鉱物を含んでおり、健康被害が報告されています。

この鉱山は1990年に操業停止しましたが、過去に使用された材料が今なお多くの建物に残存している可能性があります。

アスベストが問題となるのは、その繊維が空気中に飛散し、吸い込むことで肺疾患を引き起こすリスクがあるためです。

リビー鉱山産のバーミキュライトを使用した建物では、実際に健康被害が確認されており、建築業者が改修や解体を行う際に見逃せないポイントです。

古い公共施設や商業ビルの天井材に吹付けバーミキュライトが使われている場合、見た目ではアスベストの有無を判断できません。

過去の施工記録が不足していることも多く、ゾノライト社や当時の工法に関する情報がほぼ残っていない現状では、慎重な調査が求められます。

管理する建物に、こうしたリスクが潜んでいないか、改めて点検する必要があるのではないでしょうか。

電着工法と金色バーミキュライトの注意点

電着工法は、吹付けバーミキュライトの施工法の一つで、静電気を利用してバーミキュライトをコンクリートスラブに付着させる手法です。

有機系の糊をコテ塗りした表面にバーミキュライトを接触させ、通電することで定着させます。この工法で仕上げられた天井や壁は、茶褐色や黄金色の雲母がキラキラと光る美しい外観が特徴です。

1960〜70年代の日本住宅公団(現在の都市再生機構)の団地や公共施設でよく見られ、視覚的にも印象的な仕上がりでした。「バーミックスAP」や「モノコート」といった製品がこの工法で使われることが多かったようです。

しかし、金色バーミキュライトだからといって安心はできません。国産のバーミキュライトはアスベストの意図的な添加が確認されておらず、アスベスト含有の可能性が少ないとされていますが、天然鉱物由来の不純物としてアスベストが混入しているケースが報告されています。

電着工法自体も、アスベストを意図的に添加する工法ではなかったものの、材料の産地や製造過程で混入する可能性は否定できません。

たとえ見た目が金色で美しい天井材でも、分析しなければ安全とは言い切れません。建築業者が改修や解体を行う際は、見た目や過去の施工事例に頼らず、専門機関による分析を徹底することが重要です。

美しい仕上がりの裏に潜むリスクを、現場でどう見極めるかが問われています。

安全対策と建築業者が取るべき行動

アスベストリスクに対応するため、建築業者がまず行うべきは、吹付けバーミキュライトの分析です。金色や白銀色の外観、施工年代(特に1970〜80年代)だけでアスベストの有無を判断せず、専門機関による詳細な検査を実施することです。

分析では、偏光顕微鏡や電子顕微鏡を用いて繊維状鉱物の種類を特定し、リビー鉱山産のような高リスク材料を見極めます。この初期調査が、安全な現場づくりの基盤となります。

施工時の対策も欠かせません。アスベスト含有が疑われる場合は、作業員に防塵マスクや保護服を着用させ、飛散防止のためにも湿式工法を採用しましょう。

有効な対策としては、水を噴霧しながら解体することで、繊維の飛散を最小限に抑えられます。また、作業エリアの換気を徹底し、HEPAフィルター付きの集塵装置を活用することも有効です。

法規制の遵守も重要で、石綿障害予防規則に基づき、作業計画の策定や労働基準監督署への届出が必要です。特に、解体や改修工事では、事前調査を怠ると法令違反につながるリスクがあります。

古い公共施設や商業ビルの改修では、図面や仕様書を確認し、吹付けバーミキュライトが使用されている可能性を洗い出しましょう。

まとめ

吹付けバーミキュライトは、優れた断熱・吸音・不燃性を誇る素材ですが、アスベストのリスクが潜む可能性があります。

過去の施工記録が乏しい中、リビー鉱山産のような高リスク材料や不純物の混入を見逃さないためには、専門機関による分析が不可欠です。解説の内容をまとめると、以下の行動を推奨しています。

  • 1970〜80年代の建物では、吹付けバーミキュライトの使用を疑い、事前調査を徹底する。
  • 分析結果に基づき、防塵マスクや湿式工法を活用して飛散防止を図る。
  • 石綿障害予防規則を遵守し、作業計画や届出を適切に行う。
  • 専門機関への相談を早めに行い、リスクを最小限に抑える。

安全な現場は、知識と準備から始まります。過去の建築物に潜むリスクに目を向け、適切な対策で健康と信頼を守ります。

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