アスベスト(石綿)は、かつて建築物の断熱・耐火・吸音目的で広く使用されていました。その中でも、吹付け工法は施工が容易で効率的だったことから、多くの建物で採用されました。
しかし、アスベストは極めて細かい繊維状の鉱物であり、飛散すると吸入による健康被害を引き起こすリスクがあります。そのため、現在ではアスベストの使用が禁止されており、既存の建物に残る吹付け材も、安全な方法で処理しなければなりません。
アスベストを含有する吹付け材は、施工方法によって性質が異なり、適切な調査・処理方法を選ぶためには、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
今回は、アスベストが使用された吹付け工法の種類と特徴、安全な処理方法について詳しく解説します。
アスベスト吹付け工法の種類と特徴
アスベストを含有する吹付け工法には、大きく分けて乾式工法、半乾式(半湿式)工法、湿式工法の3種類があります。
これらの工法は、施工方法や使用される材料が異なり、仕上がりの質感や特性にも違いがあります。
特に、乾式工法と半乾式工法は見た目が似ており、目視での判別が難しいことから、専門的な分析が必要になるケースもあります。まず、それぞれの工法の特徴とアスベスト含有の可能性について詳しく解説していきます。
乾式工法
乾式工法は、アスベスト、ロックウール、セメントを工場で配合した製品を現場で水と一緒に吹付け施工する工法です。アスベストが細かく分散しており、施工後の吹付け材は均質で、表面にはセメントの粉が残るため、触ると粉っぽい質感があります。
特徴
・アスベスト、ロックウール、セメントを事前に混合した製品を使用
・吹付け材は均質で、粉っぽい仕上がりになる
・目視では他の工法と区別がつきにくい
アスベスト含有の可能性
・高い(過去に広く使用されていた)
・目視のみでの判断は困難で、分析が必要
半乾式(半湿式)工法
半乾式工法は、ロックウールを配合した製品を現場で水とセメントを混合したスラリーと一緒に吹付ける工法です。吹き付けた後、スラリーが表面を覆うことで、セメントの硬い膜が形成されます。乾式工法と似ていますが、吹付け材をよく見ると、白いロックウールとグレーのスラリーが分離しており、2つの異なる質感が確認できます。
特徴
・ロックウールを配合した製品を使用
・現場で水とセメントを混合したスラリーと一緒に吹付ける
・吹付け材は白いロックウールとグレーのスラリーが分離しており、2つの質感が混在
アスベスト含有の可能性
・低いが、まれに含有が確認されることがある
・乾式工法との区別がつきにくいため、分析を推奨
湿式工法
湿式工法は、施工後に固くなり、比重が重いことが特徴です。乾式や半乾式とは明らかに異なり、施工時の飛散も抑えられるため、比較的安全性が高い工法とされています。
特徴
・施工後に固くなり、比重が重い
・乾式や半乾式に比べて飛散しにくい
アスベスト含有の可能性
・ほとんどないが、気になるのであれば、念のため分析を実施
アスベスト吹付け材の見分け方
アスベストを含有する吹付け材は、施工方法によって外観や質感が異なりますが、乾式工法と半乾式工法は見た目が似ているため、目視だけで正確に区別するのは難しい場合があります。そのため、安全な解体・改修作業を行うためには、施工方法の違いを理解した上で、分析による確認を行うことが重要です。
目視での判断ポイント
熟練した調査者であれば、吹付け材の外観や手触りからある程度の判別が可能です。以下に、各工法の見分け方のポイントをまとめます。
乾式工法
・表面が均質で、セメントの粉が残っているため粉っぽい。
・触ると手に白い粉がつくことが多い。
・繊維が細かく、全体的に均一な見た目をしている。
半乾式工法
・白いロックウールとグレーのスラリーが分離して見える。
・表面にスラリーの硬い膜があるが、内部は比較的柔らかいことが多い。
・乾式工法よりも質感にムラがあり、触るとロックウールの繊維感を感じることがある。
湿式工法
・施工後に固くなり、比重が重い。
・乾式や半乾式に比べて粉っぽさがなく、密度が高い。
・手でこすっても粉が落ちにくい。
アスベスト吹付け材の安全な処理方法
アスベストを含む吹付け材を安全に処理するには、事前調査と適切な対策が不可欠です。作業中のアスベスト飛散を防ぐために、徹底した湿潤化や隔離措置が必要です。
まず、建築図面や施工記録を確認し、必要に応じて目視や分析でアスベストの有無を判断します。乾式工法と半乾式工法は見分けがつきにくいため、専門機関による分析が推奨されます。
処理作業では、飛散を防ぐために作業エリアを負圧隔離し、HEPAフィルター付きの集じん装置を使用します。また、吹付け材を水で湿らせながら除去し、乾燥した繊維が舞い上がるのを防ぎます。作業員は防護服と防じんマスクを着用し、安全対策を徹底する必要があります。
HEPAフィルターについては、こちらのコラムを参照
コラム: HEPAフィルターとは?空気を清潔にキレイにするその仕組みと効果
また、除去した吹付け材は密閉容器に封入し、法令に従って適切に処理します。これらの対策を講じることで、作業者や周囲の安全を確保しながら、アスベストのリスクを最小限に抑えることが可能です。
まとめ
アスベストを含む吹付け工法には、乾式・半乾式・湿式の3種類があり、特に乾式工法はアスベスト含有の可能性が高いため注意が必要です。目視だけでの判断が難しい場合は、専門の分析で確認することが重要です。
処理作業では、飛散防止対策を徹底し、適切な方法で除去・廃棄を行うことが求められます。正しい知識と対策をもって対応することで、安全な作業環境を確保し、健康被害を防ぐことができるでしょう。