アスベスト除去作業では、適切な飛散防止対策が不可欠です。対策が不十分だと、作業員や周囲の人々がアスベストを吸い込み、健康被害につながるリスクがあります。そのため、安全な作業環境を確保するために「負圧隔離養生」という手法が広く採用されています。
今回は、負圧隔離養生の基本的な仕組みや、具体的な施工手順について詳しく解説します。アスベスト除去に関わる方々にとって、実践的な知識として役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
負圧隔離養生とは?
負圧隔離養生とは、粉じんの飛散を防ぐために、作業エリアを密閉し、内部の空気圧を外部よりも低く保つことで、アスベストが外部に漏れ出さないようにする養生方法です。
通常の隔離養生では、作業エリアをシートなどで囲って物理的に封じ込めますが、負圧隔離養生では気流をコントロールすることで、安全性の向上を図ります。
負圧環境を作ることで、養生に隙間があったとしても、空気が外から内へ流れるため、アスベストが外部に拡散するリスクを大幅に低減できます。
この技術は、アスベスト除去作業における安全対策の中でも特に重要とされており、適切に施工することで、作業員だけでなく周囲の環境や第三者への健康リスクを抑えることが可能になります。
負圧環境の作り方
負圧隔離養生の最大の特徴は、作業エリアを「負圧状態」に保つことです。負圧とは、対象空間の気圧を外部よりも低くすることで、空気の流れを内部に向かわせる状態をいいます。
負圧隔離養生を機能させるためには、以下の手順で負圧環境を構築する必要があります。
1.作業エリアの密閉
・ポリシートや専用テープを使用し、天井・壁・床を完全に密閉する。
・作業エリアの出入口にはエアロック(前室)を設置し、二重の隔離を行う。
2.負圧除塵装置(負圧集塵機)の設置
・高性能HEPAフィルターを備えた負圧除塵装置を設置し、作業エリア内の空気を継続的に排出する。
・排気はダクトを通じて安全な場所に誘導し、アスベストが外部に拡散しないようにする。
3.陰圧値の管理
・作業エリア内の陰圧値は一般的に -5Pa以上 に維持する必要がある。
(基準は各自治体や工事規模によって異なります)
・負圧モニターを使用し、継続的に気圧差を測定しながら作業を進める。
負圧隔離養生の施工手順
負圧隔離養生を適切に行うためには、作業開始前の準備から終了後の確認まで、厳格な手順を踏む必要があります。ここでは、負圧隔離養生の具体的な施工手順を詳しく解説します。
1. 事前準備
まず、事前準備として作業計画書を作成し、負圧環境の維持方法や使用する機材を明確にします。作業エリアの広さや換気条件を考慮し、必要な負圧除塵装置の台数を決定したうえで、施工範囲を確認し、養生の範囲を適切に設定します。
さらに、除去対象となるアスベスト含有建材の位置を把握し、周囲の設備や壁面を保護する措置も重要です。
2. 隔離空間の構築
次に、アスベストの飛散を防ぐため、作業エリアを完全に密閉する工程に入ります。ポリシートや専用テープを使用し、天井・床・壁面を覆って隙間が生じないよう固定します。
また、作業員が出入りする場所にはエアロック(前室)を設置し、二重扉で密閉性を確保します。飛散防止対策を強化する必要がある場合は、作業後にアスベストを除去するためのシャワー室を設置することもあります。
3. 負圧環境の確立
隔離空間の構築が完了したら、負圧環境の確立に進みます。HEPAフィルターを備えた負圧除塵装置を設置し、作業エリア内の空気を継続的に排出することで、内部の気圧を外部よりも低く維持します。
排気ダクトを適切な場所に誘導し、アスベストが周囲に拡散しないように管理することも欠かせません。さらに、作業エリアの陰圧値を測定し、一般的に-5Pa以上の負圧状態を維持する必要があります。
負圧モニターを使用して気圧差を常時監視し、異常が発生した場合は迅速に対処できるよう備えましょう。
4. 作業中の管理
作業中は、負圧環境を維持しながら安全にアスベスト除去を進めます。負圧状態を保つため、モニタリングを継続し、気圧が低下した場合は負圧除塵装置の稼働状況や養生シートの密閉状態を確認します。
作業員の安全対策として、防護服(使い捨てタイプ推奨)や国家検定合格品の防塵マスクを着用し、アスベストへの曝露を防ぎます。
作業エリアを出る際は、エアロック室で防護服を脱ぎ、アスベストを作業エリア外に持ち出さないように徹底します。
5. 作業完了後の確認
作業が完了した後は、負圧隔離養生を撤去する前に最終確認を行います。まず、作業エリア内をHEPAフィルター付きの掃除機で徹底的に清掃し、アスベストの残存がないかを目視で確認します。
次に、空気中のアスベスト濃度を測定し、安全基準以下であることを確認します。問題がなければ、負圧環境を維持したまま養生シートを撤去し、シートやテープを丁寧に取り除いて廃棄します。
最後に、負圧除塵装置を停止し、すべての撤去作業を完了します。
まとめ
負圧隔離養生は、アスベストの飛散を防ぐために欠かせない施工方法です。作業エリアを密閉し、負圧除塵装置で内部の気圧を低く保つことで、アスベストが外部へ漏れ出すリスクを大幅に減らせます。
施工にあたっては、事前準備、隔離空間の構築、負圧環境の確立、作業中の管理、作業後の確認といった流れを押さえることが重要です。
特に、負圧環境を維持するための継続的なモニタリングや、作業員の安全を確保するための防護対策は必要不可欠です。また、作業者や周囲の安全を確保するためにも、作業完了後の清掃やアスベスト濃度測定は必ず実施しましょう。