あと施工アンカーの設計や施工において、意外と見落とされがちなのが「へりあき」と「はしあき」です。
これらはアンカー本体の性能とは無関係のように思えるかもしれませんが、実は引張耐力やせん断耐力に大きな影響を与える大事な要素です。
設計値どおりの耐力を発揮できるかどうかは、寸法条件を正しく設定したうえで評価できるかどうかにかかっています。
今回は、へりあき・はしあきの基本的な考え方と、設計や施工で注意すべきポイントを解説します。
「へりあき」とは?
「へりあき」とは、あと施工アンカーの中心から、コンクリート構造物の端部(縁)までの距離のうち、アンカーに作用するせん断力と直角方向にある端部までの距離を指します。
簡単に言うと、コンクリートの「横の端」からアンカーボルトまでの距離です。
この「せん断力と直角方向」とは、ボルトを引っ張る力に対して、コンクリートの表面に沿った横方向を意味します。
「はしあき」とは?
これに対して「はしあき」とは、あと施工アンカーの中心から、アンカーに作用するせん断力が向かう方向のコンクリートの端部までの距離を指します。
簡単に言うと、アンカーボルトが力を受けた方向(ボルトを引っ張る方向)に沿った「コンクリートの端」までの距離のことです。
へりあきとはしあきの重要性
へりあきとはしあきは、コンクリートがアンカーを安全に支えるための「余裕の距離」です。不足すると、コンクリートが「コーン状破壊」などを起こし、構造物全体の安全性が脅かされます。
アンカーが周囲のコンクリートとどのような距離関係にあるかを示す指標であり、適切に寸法が確保されていない場合は、コンクリートの破壊やアンカーの引抜き、ずれなどが生じる原因になります。
コーン状破壊とは?
アンカーを強く引っ張ると、コンクリートが「円錐(えんすい)=コーンの形」で割れてしまう現象を指します。
へりあきとはしあきが小さい場合の影響
「へりあき」と「はしあき」が小さい場合、あと施工アンカーのせん断耐力と引張耐力に重大な影響を及ぼします。
へりあきが小さい場合
へりあきが有効埋込み長さ(アンカーがコンクリートに固定される深さ)より小さいと、コンクリートの端部が弱いため、アンカーに引張力やせん断力が加わった際にコーン状破壊が起こりやすくなります。
コンクリートが力を十分に支えきれず、アンカーの耐久力が大幅に低下します。
設計では、有効水平投影面積(アンカーがコンクリートに力を伝える有効な面積)を小さく補正し、実際の耐力に合った安全性を確保する必要があります。
へりあきを軽視すると、アンカーの性能が発揮できず、構造物全体の耐久性が損なわれる可能性があります。
はしあきが小さい場合
はしあきが小さいと、せん断力が加わった際にコンクリートの端部で局所的にコーン状破壊が発生しやすくなり、アンカーのせん断耐力が大きく低下します。
設計では、コンクリートの支圧破壊耐力に加え、コーン状破壊耐力を考慮する必要があります。
また、コンクリートの部材厚がはしあきより小さい場合、薄いコンクリートが力を分散できず、破壊リスクがさらに高まります。
施工現場では、せん断力が予期せぬ方向に作用する可能性もあるため、はしあきの十分な確保と設計上の安全評価が必要不可欠です。
部材厚とへりあき・はしあきの関係
へりあきやはしあきを正しく評価するには、コンクリートの厚さ(部材厚)との関係も大切です。
特に、部材厚がへりあきやはしあきより薄い場合、コンクリートの破壊挙動が変わり、想定どおりの耐力を発揮できないおそれがあります。
設計では通常、「コンクリートの厚さがはしあきより大きい」ことを前提にしていますが、実際の現場ではそうでない場合もあります。その場合、部材厚がどれくらい影響するのかを評価する必要があります。
アンカーの性能だけを見るのではなく、設置されるコンクリート部材の寸法や形状、周辺状況まで含めて総合的に検討することが重要です。
施工時のチェックポイントと対応策
へりあき・はしあきに関する問題は、設計段階だけでなく施工現場でも注意が必要です。図面通りに施工できないケースや、既存構造物へのアンカー設置では、寸法条件を確保できないこともあります。
そうした場合には、施工前に現場を入念に確認し、代替案を模索したり、設計者と再調整したり、対応を怠らないことが肝要です。
また、あと施工アンカーの施工後に「試験」や「目視確認」を行い、コンクリートの欠損やひび割れが発生していないかを点検しましょう。
小さな不備が将来の構造トラブルに発展する可能性があるため、初期段階での丁寧な対応が信頼性確保のポイントになります。
現場で柔軟に対応しつつも、基本寸法を守る意識を徹底することで、アンカーの性能を最大限に引き出すことができます。
まとめ
あと施工アンカーの信頼性を確保するうえで、へりあき・はしあきは重要な設計条件です。
いずれも寸法が不十分だと、コンクリートの破壊モードが変化し、引張耐力やせん断耐力が著しく低下するリスクがあります。また、部材厚の影響も併せて評価することで、より安全で実用的な設計が実現できるでしょう。
見た目にはわかりづらい「距離」の問題こそ、施工後の構造物の安全性に直結する重要なポイント。基本に忠実な設計・施工を心がけることが、確かな品質と安心を実現する第一歩となるでしょう。