非破壊検査は、構造物を壊さずに品質や劣化状態を評価し、施工の信頼性や建物の長寿命化を支えています。
建築現場では、ひび割れや鉄筋腐食の見逃しが重大な事故につながるリスクがあり、適切な評価がなければ補修や改修の判断も難しくなります。
老朽化したビルでは不具合を放置した結果、はく落事故が発生した事例も報告されています。非破壊検査はこうしたリスクを未然に防ぎ、構造物の安全を確保する鍵となります。
今回は、建築現場での具体的な事例を通じて、非破壊検査の必要性と実践的な活用方法を解説していきます。
非破壊検査の基本と施工段階での活用
非破壊検査は、コンクリート構造物を壊さずに品質や性能を評価する技術です。
着工から竣工までの施工段階では、設計通りの品質を確保する重要な役割を果たします。具体的には、材料や部材が仕様書や示方書に適合しているかを確認し、設計の欠陥を早期に発見します。
また、コンクリートの養生期間、プレストレス導入時期、載荷開始のタイミングを的確に判断します。
日本非破壊検査協会が定めたコンクリート構造物の目視試験方法の規格に【NDIS 3418】と呼ばれる規格があります。これはコンクリート構造物の目視試験を行う際の具体的な手順や基準を定めたものです。
このNDIS 3418に照らし合わせることで、コンクリート表面の不具合を標準化された手順で評価できます。
ジャンカ(豆板)、砂すじ、気泡といったコンクリートの不具合を目視で確認し、超音波試験で締固め状態を調べるなど、現場で簡便な手法として活用可能です。
NDIS 3418の規格書は、下記のリンクの書式より、日本非破壊検査協会へ申し込みすることで購入できます。
標準規格を活用した検査は、客観性と信頼性を高め、事故リスクを大幅に低減します。施工段階での非破壊検査は、建築業者にとって責任ある施工の基盤といえます。
竣工時の品質評価と不具合の検出
竣工時のコンクリート構造物の品質評価では、非破壊検査が品質の担保に欠かせない役割を果たします。
従来、コンクリートの強度は、現場で採取した供試体の28日強度で代表されていましたが、非破壊検査は表面と内部の不具合を詳細に評価します。
表面の不具合には、ジャンカ、砂すじ、気泡、色むら、目違い、打継ぎの不具合、ひび割れがあり、NDIS 3418に基づく目視試験で確認できます。
内部の不具合には、鉄筋のかぶり不足、打継ぎ部分の不連続、ひび割れの深さ、締固め不足、塩化物量、アルカリ反応性骨材の有無、強度不足が含まれ、超音波試験やレーダー探査、コア採取で正確に評価可能です。
商業ビルの竣工検査では、レーダー探査により打継ぎ部分の不連続を検出し、補修で品質を向上させた例があります。これらの検査は、構造物の初期性能を保証し、長期的な耐久性を支えます。
経年劣化と構造物の存続評価
コンクリート構造物は経年とともにひび割れ、中性化、鉄筋腐食、アルカリ骨材反応、凍害などの劣化が進みます。
非破壊検査は、これらの劣化状態を評価し、構造物の存続を判断する重要な手段です。
評価の場面には、構造物の売買や保険加入、用途変更、増改築、劣化原因の精査、材料の長期変質のモニタリング、火災や過荷重による安全性確認が含まれます。
定期点検では、目視試験を実施し、ひび割れやはく落を確認し、その結果に応じて、中性化深さや小径コアによる強度試験など簡易試験を行います。
必要なら詳細試験(塩化物量、配筋状態、不同沈下など)も実施します。点検データを記録するシステムを導入し、劣化の進行を追跡します。
こうした評価は、構造物の安全な存続を支え、補修や用途変更の判断に役立ちます。標準規格を活用した正確な検査により、劣化の早期発見が可能となり、重大な事故を未然に防ぐことにつながります。
補修・修復と解体判断のための非破壊検査
コンクリート構造物の補修・修復や解体判断では、非破壊検査が適切な時期と方法を決定する鍵となります。
劣化が進んだ構造物では、ひび割れの深さ、鉄筋腐食、強度低下を評価し、補修で初期性能を回復可能か、あるいは解体が必要かを判断します。
電磁誘導法で鉄筋の腐食状態を確認したり、小径コア試験でコンクリートの強度を測定したりする手法が有効です。
また、詳細試験では、塩化物量、セメント量、不同沈下、床版のたわみ、動的試験を行い、構造物の耐力低下やはく落リスクを正確に把握します。
検査の実施により、補修計画の精度が向上し、過剰なコストを回避できます。検査結果を基に補修時期を計画し、設計図書に記録することが重要となります。
解体判断では、耐震性やはく落リスクを評価し、存続が困難な場合に適切な結論を導きます。目視試験や詳細試験を組み合わせることで、客観的なデータに基づく判断が可能です。
非破壊検査は、構造物の健全性を維持し、補修や解体の最適な選択を支える基盤となっています。
まとめ
非破壊検査は、コンクリート構造物の安全と信頼性を確保する不可欠な技術です。以下のポイントを現場で活用し、持続可能な建築を実現しましょう。
施工段階の品質管理
材料の適合性や養生期間を評価し、施工ミスを防ぐ。
竣工時の不具合検出
表面・内部の不具合を目視や超音波で確認し、初期品質を保証。
経年劣化の評価
定期点検でひび割れや中性化を検出し、存続判断を支援。
補修・解体判断
劣化状態を詳細に評価し、補修や解体の最適な選択を導く。
NDIS 3418のような標準規格を活用した検査は、構造物の長寿命化を支えます。非破壊検査を積極的に取り入れることで、正確な評価で安全な施工を実現しましょう。