建物の解体・改修工事について
建物の所有者・管理者は、工事を発注する際に、アスベストによるリスクを考慮しなければなりません。アスベスト含有建材が使用されている建物の解体・改修工事では、アスベストが飛散する可能性があります。
本コラムではアスベストに関して、法的に要求されている事項について解説していきます。
法によって要求されている事項
1,石綿障害予防規則
石綿予防規則で発注者に求めている内容として、以下のものが挙げられます。
・解体等対象建築物等における石綿等の使用状況等を通知するよう努めること(第8条第1項)
・事前調査等及び工事の記録の作成が適切に行われるように配慮すること(第8条第2項)
・作業の方法、費用または工期等について、法の規定の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮すること(第9条)
2,大気汚染防止法
大気汚染防止法で発注者に求めている内容として、以下のものが挙げられます。
・解体工事の元請け業者が行う事前調査の費用を適正に負担し、必要な措置を講ずる事により事前調査に協力しなければならない(第18条の15第2項)
・元請業者に対して作業基準の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮すること(第18条の16)
・事前調査結果について元請業者から書面で説明を受けた上で、吹付けアスベスト等の除去の作業については、都道府県知事に作業実施を届出すること(第18条の17)
・元請業者から書面交付の上で事前調査の結果報告を受けること(第18条の15)
・元請業者から書面交付の上で除去作業の結果報告を受けること(第18条の23)
発注者が元請業者から説明・報告を受けるのは、工事の内容や法規制を確認し、適切な発注を行うことで、アスベスト飛散の事故を防止するためです。なお、発注者が届出を怠った場合は30万円以下の罰金に科せられることがあるため注意が必要です。
解体・改修工事とアスベスト除去工事の実情
解体・改修工事において、アスベスト飛散防止のために発注者が果たす役割は大きく、飛散事故が発生した場合は責任が問われる事態になりかねません。発注者は法的な要求事項を守るだけではなく、事前調査を行い、結果に基づいて迅速に対策を実施するなど、積極的に行動することが求められます。特に注意が必要なのは、建物利用者が滞在中の工事で、飛散事故が発生すると損害賠償を請求されることになりかねません。
また、工事中にアスベスト含有建材が発見されると、対策のために追加で想定外の費用がかかってしまいます。そのような事態を未然に防ぐために、注意するべき内容について解説していきます。
1,高リスクな工事を回避する
建物利用者が滞在している状態で行うアスベスト除去や改修工事は、アスベストが漏洩するとすぐに曝露事故になってしまう非常にリスクが高い工事です。過去の重大な漏洩事故は、このような状況下の工事で発生しています。
建物の所有者・管理者は、調査によって建物に残されているアスベスト含有建材を把握して、どのような工事をいつ行うのか、現状のリスクと工事のリスクを鑑みて、利用者と情報共有を行い、決定することが理想です。
2,発注者による調査
解体・改修工事で受注金額を決定するためには、使用されているアスベスト含有建材の種類と量を把握する必要があります。アスベスト対策は費用が高額になることも多く、アスベスト除去費用の、解体費用に占める割合が高くなっています。事前調査では、対象となる建物や区画に存在する、全てのアスベスト含有建材を調査する必要があります。発注者が依頼した調査結果の報告書をもとに、元請業者が見積もりを行います。
つまり、事前調査を行い、前もって見積もりを取ることで、事前に工事の費用を把握できます。環境省と厚労省のマニュアルでは、発注者による工事発注前の事前調査を推奨しています。
3,受注者による事前調査
2で述べたような、発注者による建物調査を行わずに、事前調査を含めて工事業者と契約する場合もあると思われます。その場合、受注者による事前調査が完了しなければ、アスベスト除去にかかる費用が分かりません。一般的には、アスベスト関連工事を除いた工事契約を仮で締結し、元請業者による事前調査が完了した後で、調査結果を元にアスベスト関連工事の詳細を決めて、その内容を反映した上で本契約を締結することになります。
4,工事中に発見されたアスベスト含有建材
石綿障害予防規則第3条第7項には、工事前の事前調査では、確認することが困難な建材について、工事の進行にともない確認可能となった段階で調査することが規定されています。調査者は解体工事前に、構造上目視で確認が困難だった場所について「調査出来なかった場所」と指摘しておき、工事が進行して可能となった段階で、調査実施する旨を報告書に記載します。調査結果によっては、アスベスト含有建材が追加されることがあるので、その場合は契約内容が変更されることになります。
5,レベル1,2の除去工事
レベル1,2の除去工事で、切断などの粉塵が発生する工事は、隔離された範囲内で行います。これは専門業者が行う作業で、アスベスト除去工事の中で最もリスクが高く、費用と工期を要する作業となっています。工事は、作業場を密閉して、特殊な設備で一定方向に負圧して集塵ができる環境を作り出す必要があります。作業には保護具、保護衣を消費し、さらに廃棄費用もかかることから、高額な費用と長い工期が必要となります。
6,木造戸建て住宅での注意点
木造戸建て住宅であっても、事前調査は必要です。正確な事前調査によって、適正なアスベスト対策工事が可能となります。発注者は事前調査の費用を負担する必要があります。
7,建物利用者への周知・情報開示
アスベスト除去工事だけでなく建物の解体・改修工事では、工事を知らせる看板を掲示することが、法規によって義務付けられています。工事に関する問い合わせに適切に回答できる体制を築いておくことも重要です。
8,第3者による検査
発注者や元請業者自身が監視・検査していたのでは、隠蔽やごまかしの原因となりかねません。このような事態を未然に防ぐために、第3者による検査の必然性が高まっています。公共工事や大規模な工事では、自主的に第三者性を確保することが広まっています。