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コラム

事例から学ぶアスベスト対策2

【公立保育園で改修工事によるアスベスト飛散事故が発生】

1999年7月、東京都文京区のさしがや保育園では、園舎の改修工事中、天井裏に存在した吹付けアスベストが飛散し、隣接する保育室の園児たちが、アスベストにさらされるという事故が発生しました。改修工事は、吹付けクロシドライトというアスベストを含んだ耐火被覆の一部を剥がしながら、8日間にわたって作業が行われました。この事故は、園児108人を含む関係者が被害を受ける深刻な事故になりました。
事前の説明では、自治体は「吹付けアスベストは存在しない」と主張していましたが、指摘されたことにより「存在するが触れない」と説明が変更され、保護者の不安が払拭されないままに工事が行われました。結果としてアスベストは飛散し、保護者と自治体、業者との信頼関係は完全に崩れました。この事故は大々的に報道され、損害賠償請求裁判にまで発展し、区は約1億円の費用をかけて補償や追加工事を行うことになりました。

区では、事故を受けて「文京区立さしがや保育園アスベストばく露による健康対策等検討委員会」を設置しました。委員会では、このような事態が発生した原因を究明し、今後の対応策について議論し、2007年12月に区長に答申を行いました。その答申を受けて、「文京区立さしがや保育園アスベスト健康対策等専門委員会」が設置され、対象となる園児と職員149人に対する具体的な健康対策が検討されました。その結果、「文京区立さしがや保育園アスベスト健康対策実施要綱」が制定されました。

検討委員会の調査により、アスベストによる過剰発がんリスクはおおよそ10万分の6程度と推定されています。これは、同じ曝露を受けた場合に10万人中6人が肺がんまたは中皮腫を発症する可能性を示しています。一般的には、10万分の1を超えるリスクは許容できないとされています。したがって、園児が実際に肺がんなどを発症する可能性は低いですが、もし発症した場合は、発注者である自治体が補償する必要があります。区では現在も、対象者の健康診断と健康相談を実施しています。また、事故後に行われた区のリスクコミュニケーションは高く評価されており、行政と当事者の信頼回復に有効であったと評価されています。

この事例の問題点は、発注した自治体と受注した業者の双方が、アスベスト関連の工事であるという認識を持っておらず、事前調査が疎かになってしまったところにあります。最初は「アスベストは存在しない」と説明し、後に「あるけれども触らない」と説明が変更された時点で、どのような工事が行われるのかを確認していれば、未然に事故は予防できた可能性があります。しかし、この教訓は活かされておらず、同様の事故が20年後、長野県の民間の保育園でも発生しています。このことから、改修工事における事前調査の重要性や、建物内でのアスベスト除去工事の高いリスクなど、まだまだ基本的な認識は十分に広まっていないと言えるでしょう。

【アスベスト廃棄物を放置したまま土地を売却し、賠償を求める】

2007年、運輸会社が物流センターの用地として、東京都内の工場跡地の土地と建物をポンプメーカーから購入しました。しかし、その土地の表面や地中には、広範囲にわたってアスベストを含んだスレート板の破片が混じっていました。このため、買主の運輸会社は周辺住民と行政との協議を経て、検討を重ねた結果、アスベストを含むスレート片をすべて撤去することにしました。
そして、運輸会社は売主であるメーカーに対して、売買契約に基づく瑕疵除去の義務違反または瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求める訴訟を起こしました。具体的には、石綿含有スレート片の撤去および処分費用、建設工事の遅延に伴う追加費用などの支払いを求めたのです。

※瑕疵(かし)造成不良や設備の故障など、取引の目的である土地・建物に何らかの欠陥があること

アスベストには土壌汚染の基準が存在しないため、除去の必要性を立証することは困難であるとされています。過去の類似の裁判では、買主が敗訴した例があります。このケースでは、以下3つの要素が実証されたため、一審および二審で一部の撤去費用の支払いが認められました。

1,汚染の実態が明確になっていること
2,土壌を分別せずに全面的に撤去する必要性があること
3,所管する行政機関からの指導があったこと

その結果、2019年に最高裁は、売主の上告棄却および当事者双方の上告受理申立てを受理しない旨を決定し、賠償責任を認めた控訴審の判決が確定しました。このケースは、土壌に石綿スレート片が混入していることが売買契約上の「瑕疵」と認められた初めての事例です。

アスベスト含有スレート板は、建材として最も多く生産されてきました。特に工場や倉庫などで広く使用されています。工場跡地の地中にスレートの破片が混入している原因については想像の域を出ませんが、解体された工場の建材が放置されたり、廃棄物として処理されずに地中に埋められた可能性が考えられます。土地の売買においては、土壌汚染調査が義務付けられている場合もありますが、アスベストは対象外となっています。自主的な調査においても、アスベストが調査対象になることは少ないのが現状です。土地取引の際には、土地の履歴を調査し、必要に応じてアスベストの調査を行うことが推奨されています。

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