石綿障害予防規則制定の経緯
石綿障害予防規則が制定された経緯には、アスベストの深刻な危険性が、科学的根拠によって判明したことが関与しています。以下は、石綿障害予防規則が制定された背景や経緯の主なポイントです。
1. アスベストの危険性の認識
アスベストは耐熱性や耐火性があり、建築や製造業などでさまざまな用途に使用されてきました。しかし、1960年代から1970年代にかけて、アスベストが人体の呼吸器系などに対して悪影響を与えることが科学的に確認されました。アスベストの微細な繊維が吸入されると、肺に深刻な損傷を与え、アスベスト関連疾患(石綿肺、中皮腫など)を引き起こす危険性があります。
2. 国際的な取り組み
国際的にも、アスベストの健康への影響に対処するための取り組みが進められました。1972年には国際労働機関(ILO)や世界保健機関(WHO)がアスベストに関するガイドラインや勧告を発表し、アスベスト使用の規制や予防策の必要性が強調されました。
3. 国内法の整備
これらの国際的な動きを受けて、多くの国で国内法が整備されました。日本でも、アスベストによる健康被害の防止を目的とする法令が必要とされ、1971年に労働省によって特定化学物質等障害予防規則が制定されました。これが日本におけるアスベスト規制の始まりです。
4. 産業界の変化
その後、2005年に特定化学物質等障害予防規則からアスベストの規制を独立させる形で石綿障害予防規則が制定されました。
石綿障害予防規則の制定には、産業界の構造や技術の進歩も関与しています。新しい材料や代替物の開発が進み、アスベスト使用の代替が求められたことも規制の要因となりました。
大きな変化としては、吹付けアスベストだけではなく、成形板も含めたアスベスト含有建材の除去作業において、飛散防止対策・労働者の健康管理・作業主任者の専任が義務付けられることになったことです。
上記のような経緯で制定された石綿障害予防規則は、1972年に制定された労働安全衛生法と共にアスベストの規制では中心的な役割を担っています。
法規制の目的
【引用】
労働安全衛生法(目的)
第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。石綿障害予防規則
(事業者の責務)
第一条
1 事業者は、石綿による労働者の肺がん、中皮腫その他の健康障害を予防するため、作業方法の確立、関係施設の改善、作業環境の整備、健康管理の徹底その他必要な措置を講じ、もって、労働者の危険の防止の趣旨に反しない限りで、石綿にばく露される労働者の人数並びに労働者がばく露される期間及び程度を最小限度にするよう努めなければならない。
2 事業者は、石綿を含有する製品の使用状況等を把握し、当該製品を計画的に石綿を含有しない製品に代替するよう努めなければならない。
【解説】
労働安全衛生法は、働く人たちの安全と健康を確保し、快適な仕事の場を作り出すことを目指した法律です。この法律では、労働災害を防ぐために、作業の責任者を指定したり、健康に影響を与える可能性のある措置や計画を届け出ることについて規定されています。
石綿障害予防規則は、アスベストによる健康被害を予防するための措置を推進することを目的としています。具体的には、建物の解体で発生する作業におけるアスベストのばく露を防ぐための基準が、厚生労働省の法令で示されています。
従来は、このような健康被害の防止については特定化学物質等障害予防規則で規定されていましたが、増加する建築物の解体によるアスベストによる健康被害対策を一層進めるために、2005年7月1日から独立した規則として石綿障害予防規則が制定されました。
石綿障害予防規則を制定した目的
石綿障害予防規則が制定された主な目的は、アスベストによる健康被害を予防し、労働者の安全と健康を確保することです。以下に、具体的な目的を解説します。
1. アスベストによる健康被害の防止
アスベストはその微細な繊維が吸入されると、呼吸器系に深刻な損傷を与え、中長期的には石綿肺や中皮腫などの健康被害を引き起こすことが知られています。このような健康被害を最小限に抑えるために、規則はアスベストの取り扱いに関する具体的な基準や予防策を規定しています。
2. 作業環境の安全確保
特に建築物の解体作業や、その他の産業においてアスベストが広く使用されていました。規則は、労働者がアスベストを取り扱うにあたって、適切な保護を受け、安全に作業できるようにするための基準を示しています。
3.労働者の健康管理
規則は、アスベストに関連する作業に従事する労働者の健康を定期的にモニタリングし、早期に健康被害の兆候を検知して適切な対応を取るための措置を定めています。
4.国際的な基準への適合
国際的な健康安全基準や勧告に合致する形で、アスベストによる健康被害への対策を進めることが目的の一環となっています。規制によって国際的な標準に合わせた取り組みが推進されます。
まとめ
石綿障害予防規則は、上記の目的に基づいて制定されています。規定を守ることで、アスベストによる労働者の健康被害を予防し、作業環境の安全性の向上が目的となっています。
円滑な工事を行うためにも、規則の目的を正しく理解して法令遵守を徹底しましょう。